Chu! PRESS
2021.11.26
大人のみなさんへ。今、大人にこそグッとくる「やなせたかしの世界」
- #やなせたかしの世界

12月26日(日)まで、郡山市立美術館で開催中の企画展「やなせたかしの世界 愛と抒情~アンパンマンを生んだ人~」。
本記事では、Chu!PRESS編集部のかなごんが実際に足を運んで感じた企画展の魅力や、作品の裏側にあるアイディアの原点まで、じっくり深掘りして連載でお伝えしていきます。
【前回の記事はこちら⇒https://bit.ly/3lhukXf】
やなせたかしさんのイメージは?と聞くと、多くの人が「アンパンマンの作者」と答えるかもしれません。
幼い頃にアンパンマンが躍動するテレビ画面をじっと見つめていた記憶を持つ人間として、正直に言うと私も同じようなイメージを持っていました。
「やなせたかしの世界」を大人になった今でも十分に楽しみ尽くせるのだろうか…。
今回、取材へ行くことになり、ほんのちょっぴり不安を感じながら私は会場へ向かいました。
しかし実際に足を運んでみると、そんな不安は杞憂に過ぎませんでした。
気が付けば「大人」になった私たちへの問題提起によって思考の渦へと導かれ、鑑賞後は、なんだか重めの長編小説を一本読んだ後に似た感覚を味わいました。スタッフによると、大人ひとりで観に来る人も多いんだとか。
ですから、こうして記事を書いている今、子供たちが楽しめるのは勿論ですが、個人的には、むしろ大人にこそぜひ足を運んでほしい、と強く思っています。
そんな「やなせたかしの世界」を、郡山市立美術館の学芸員・永山多貴子さんのお話を交えながら、連載でご紹介します。
人を喜ばせるのが好き、と公言し、どんな仕事も絶対に手を抜かずに引き受けたというやなせさん。
やなせさんは漫画家、詩人、イラストレーター、絵本作家としても活躍したマルチクリエイターでしたが、実はやなせさんにとって幼い頃からの夢は、まんが家になることでした。

終戦後、高知新聞で『月刊高知』の編集者として働きました。まんがや文章に触れ、まんが家になりたいという気持ちを思い出したやなせさんは、28歳の時に上京し、三越に入社。現在も使われている、あの三越の包装紙の「Mitsukoshi」の題字も手がけたそうです。そして副業漫画家として活動したのち、34歳の時にようやくまんが家としてデビューしたのです。
まんが家といっても、現在一般的なストーリーのある長編作品ではなく、新聞の隅に載っているような4コマ漫画や、広告の漫画を描いていました。
代表的な作品のひとつが、サッポロビールの「ビールの王さま」。見たことがある方も多いのではないでしょうか。

(「ビールの王様」)
よく見てみると、言葉がありません。
絵を見るだけで、どんな人でもストーリーが全部わかる。それでいて、それぞれの発想力で、色んな解釈が出来る…そんな漫画を沢山描いていたんですね。

この作品をみると、口ずさみたくなるのは私だけでしょうか。
♩ぼくらはみんな 生きている
生きているから 歌うんだ
(やなせたかし「てのひらを太陽に」より抜粋)
そう、誰もが口ずさむことが出来る名曲「手のひらを太陽に」です。
アップテンポで、シンバルをたたきたくなるような、歌っているうちに元気が出てくるような、そんな曲ですよね。
小学校の教科書にも掲載されており、私も小さい頃から合唱団で何度も何度も歌ってきました。
この「手のひらを太陽に」を作詞したのは、やなせたかしさんでした。
(ちなみに、作曲したのはあの「見上げてごらん夜の星を」を作曲したいずみたくさんです。
2人は、この後も沢山の曲を一緒につくっています。)
フリーのまんが家としてデビューしたはいいものの、代表作になかなか恵まれなかったこの頃。
テレビ番組の放送作家や、映画の批評、ミュージカルの舞台装置デザインなどを手掛けながら、まんが家として自らの仕事に行き詰まりを感じていた時、ふと手のひらを懐中電灯で照らしてみたら、沈んだ心とは裏腹に元気に流れる自らの血の流れが、自分を励ましてくれているような気持ちになったことがきっかけで生まれた作品なんだそうです。
NHKみんなのうたで放送された後、1969年にレコードが発売されると、大ヒットしました。

「てのひらを太陽に」も掲載されている詩集『愛する歌 第1集』のあとがきで、やなせさんはこんな言葉を残しています。
「詩集といってもぜんぶ曲がついている歌うための歌です。難解な詩はひとつもありません。ごくあふれた言葉で、ありふれたこころを歌ってきたにすぎません。(中略)(マンガと詩は)わかりやすく、人生を楽しくするために役立つものでなければならないはずです。」
誰にでもわかるやさしいことばで、深く心に刺さる、真理を映し出すやなせさんの詩。
生きることに疲れた時、どうしたらいいかわからなくなってしまった時、みんなの心に寄り添ってくれるような、そんな気がします。

まず目に飛び込んできたのが、色鮮やかに広がるお話の世界。
永山さんも「作品が出来てから50年近くたっているとは思えないほど状態が良い」と話します。
絵本の原画なので、こんな風に、文字が切り貼りされています。

そして驚いてしまったのですが、すべて同じ人が手がけたとは思えないほど、お話によって全く違う作風です。それでいて個人的にはどの作品にも共通して(表現が難しいのですが…)どこかやさしさがにじみ出ているように感じました。

一方で、お話そのものは、「なんて展開なんだ…!」と思ってしまうような作品が多いんだそう。
私も何冊か本を読んでみました。

ネタバレになってしまうのであまりここには綴りませんが、とにかく心がぎゅっと握りつぶされたように苦しくなってしまう、やるせない気持ちになってしまう、そんな場面があったりします。でも最後は必ずちょっぴり希望が残っている、みたいな。
理不尽なことやどうにもうまくいかないこと、色んなことがあるけれど、そんな世の中を生きていかなければいけない。ではどんなふうに生きていけばいいんだろう。その一つの答えを、やなせさんらしい哲学で、私たちに語りかけているような気がします。
企画展「やなせたかしの世界」は12月26日(日)まで郡山市立美術館で開催中。
Chu!PRESS編集部 かなごん
【参考文献】
・図録「やなせたかしの世界」/ 公益財団法人やなせたかし記念アンパンマンミュージアム振興財団
・小学校5年国語「やなせたかし―アンパンマンの勇気」 / 光村図書出版株式会社
・詩集 愛する歌 第1集 / やなせたかし / 株式会社サンリオ
・「愛・LOVE・優」 / やなせたかし / 有限会社やなせスタジオ
・「優・LOVE・美」 / やなせたかし / 有限会社やなせスタジオ
・「人間なんておかしいね」 / やなせたかし / 株式会社たちばな出版
・「しろいうま」 / やなせたかし / 株式会社フレーベル館
・「すぎのきとのぎく」 / やなせたかし / 株式会社フレーベル館
・「チリンのすず」 / やなせたかし / 株式会社フレーベル館
【参考サイト】
「やなせたかしについて」 / 香美市立やなせたかし記念館 https://anpanman-museum.net/yanase/
本記事では、Chu!PRESS編集部のかなごんが実際に足を運んで感じた企画展の魅力や、作品の裏側にあるアイディアの原点まで、じっくり深掘りして連載でお伝えしていきます。
【前回の記事はこちら⇒https://bit.ly/3lhukXf】
やなせたかしさんのイメージは?と聞くと、多くの人が「アンパンマンの作者」と答えるかもしれません。
幼い頃にアンパンマンが躍動するテレビ画面をじっと見つめていた記憶を持つ人間として、正直に言うと私も同じようなイメージを持っていました。
「やなせたかしの世界」を大人になった今でも十分に楽しみ尽くせるのだろうか…。
今回、取材へ行くことになり、ほんのちょっぴり不安を感じながら私は会場へ向かいました。
しかし実際に足を運んでみると、そんな不安は杞憂に過ぎませんでした。
気が付けば「大人」になった私たちへの問題提起によって思考の渦へと導かれ、鑑賞後は、なんだか重めの長編小説を一本読んだ後に似た感覚を味わいました。スタッフによると、大人ひとりで観に来る人も多いんだとか。
ですから、こうして記事を書いている今、子供たちが楽しめるのは勿論ですが、個人的には、むしろ大人にこそぜひ足を運んでほしい、と強く思っています。
そんな「やなせたかしの世界」を、郡山市立美術館の学芸員・永山多貴子さんのお話を交えながら、連載でご紹介します。
●まんが家・やなせたかし
人を喜ばせるのが好き、と公言し、どんな仕事も絶対に手を抜かずに引き受けたというやなせさん。
やなせさんは漫画家、詩人、イラストレーター、絵本作家としても活躍したマルチクリエイターでしたが、実はやなせさんにとって幼い頃からの夢は、まんが家になることでした。

終戦後、高知新聞で『月刊高知』の編集者として働きました。まんがや文章に触れ、まんが家になりたいという気持ちを思い出したやなせさんは、28歳の時に上京し、三越に入社。現在も使われている、あの三越の包装紙の「Mitsukoshi」の題字も手がけたそうです。そして副業漫画家として活動したのち、34歳の時にようやくまんが家としてデビューしたのです。
まんが家といっても、現在一般的なストーリーのある長編作品ではなく、新聞の隅に載っているような4コマ漫画や、広告の漫画を描いていました。
代表的な作品のひとつが、サッポロビールの「ビールの王さま」。見たことがある方も多いのではないでしょうか。

(「ビールの王様」)
よく見てみると、言葉がありません。
絵を見るだけで、どんな人でもストーリーが全部わかる。それでいて、それぞれの発想力で、色んな解釈が出来る…そんな漫画を沢山描いていたんですね。
●詩人・やなせたかし「手のひらを太陽に」

この作品をみると、口ずさみたくなるのは私だけでしょうか。
♩ぼくらはみんな 生きている
生きているから 歌うんだ
(やなせたかし「てのひらを太陽に」より抜粋)
そう、誰もが口ずさむことが出来る名曲「手のひらを太陽に」です。
アップテンポで、シンバルをたたきたくなるような、歌っているうちに元気が出てくるような、そんな曲ですよね。
小学校の教科書にも掲載されており、私も小さい頃から合唱団で何度も何度も歌ってきました。
この「手のひらを太陽に」を作詞したのは、やなせたかしさんでした。
(ちなみに、作曲したのはあの「見上げてごらん夜の星を」を作曲したいずみたくさんです。
2人は、この後も沢山の曲を一緒につくっています。)
フリーのまんが家としてデビューしたはいいものの、代表作になかなか恵まれなかったこの頃。
テレビ番組の放送作家や、映画の批評、ミュージカルの舞台装置デザインなどを手掛けながら、まんが家として自らの仕事に行き詰まりを感じていた時、ふと手のひらを懐中電灯で照らしてみたら、沈んだ心とは裏腹に元気に流れる自らの血の流れが、自分を励ましてくれているような気持ちになったことがきっかけで生まれた作品なんだそうです。
NHKみんなのうたで放送された後、1969年にレコードが発売されると、大ヒットしました。

「てのひらを太陽に」も掲載されている詩集『愛する歌 第1集』のあとがきで、やなせさんはこんな言葉を残しています。
「詩集といってもぜんぶ曲がついている歌うための歌です。難解な詩はひとつもありません。ごくあふれた言葉で、ありふれたこころを歌ってきたにすぎません。(中略)(マンガと詩は)わかりやすく、人生を楽しくするために役立つものでなければならないはずです。」
誰にでもわかるやさしいことばで、深く心に刺さる、真理を映し出すやなせさんの詩。
生きることに疲れた時、どうしたらいいかわからなくなってしまった時、みんなの心に寄り添ってくれるような、そんな気がします。
●絵本作家・やなせたかし
実は、「やなせたかしの世界」へ取材に行ってきます!とこの企画展のプロデューサーに話したところ、「とにかくやなせさんの絵本を一度読んでみてほしい」と教えてもらいました。絵本はもう18年くらい読んでないなぁ、なんてワクワクしながら会場に向かいました。
まず目に飛び込んできたのが、色鮮やかに広がるお話の世界。
永山さんも「作品が出来てから50年近くたっているとは思えないほど状態が良い」と話します。
絵本の原画なので、こんな風に、文字が切り貼りされています。

そして驚いてしまったのですが、すべて同じ人が手がけたとは思えないほど、お話によって全く違う作風です。それでいて個人的にはどの作品にも共通して(表現が難しいのですが…)どこかやさしさがにじみ出ているように感じました。

一方で、お話そのものは、「なんて展開なんだ…!」と思ってしまうような作品が多いんだそう。
私も何冊か本を読んでみました。

ネタバレになってしまうのであまりここには綴りませんが、とにかく心がぎゅっと握りつぶされたように苦しくなってしまう、やるせない気持ちになってしまう、そんな場面があったりします。でも最後は必ずちょっぴり希望が残っている、みたいな。
理不尽なことやどうにもうまくいかないこと、色んなことがあるけれど、そんな世の中を生きていかなければいけない。ではどんなふうに生きていけばいいんだろう。その一つの答えを、やなせさんらしい哲学で、私たちに語りかけているような気がします。
企画展「やなせたかしの世界」は12月26日(日)まで郡山市立美術館で開催中。
Chu!PRESS編集部 かなごん
【参考文献】
・図録「やなせたかしの世界」/ 公益財団法人やなせたかし記念アンパンマンミュージアム振興財団
・小学校5年国語「やなせたかし―アンパンマンの勇気」 / 光村図書出版株式会社
・詩集 愛する歌 第1集 / やなせたかし / 株式会社サンリオ
・「愛・LOVE・優」 / やなせたかし / 有限会社やなせスタジオ
・「優・LOVE・美」 / やなせたかし / 有限会社やなせスタジオ
・「人間なんておかしいね」 / やなせたかし / 株式会社たちばな出版
・「しろいうま」 / やなせたかし / 株式会社フレーベル館
・「すぎのきとのぎく」 / やなせたかし / 株式会社フレーベル館
・「チリンのすず」 / やなせたかし / 株式会社フレーベル館
【参考サイト】
「やなせたかしについて」 / 香美市立やなせたかし記念館 https://anpanman-museum.net/yanase/
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